「HB」から始まる書く人生─“ふつう”の記号が記憶に残る理由

初めて鉛筆を手にしたのは、いつだっただろう。六角形の軸をぎこちなく握り、ノートの上に初めて文字を刻んだ日。その瞬間から、僕らの“書く人生”は始まったのかもしれない。
世界中の誰もが通る道。それがHBという名の鉛筆だ。そしてそのHBの頂点とも言える一本が、三菱鉛筆の「Hi-UNI」だ。
「ふつう」の芯の硬さ、HB。
学校で配られるプリントに、家庭の引き出しに、子どもの用筆箱に。それが“標準”とされる理由を子供の頃はしならなかった。先生も教えてくれなかった。
でも大人になってふと思う。
HBとは「誰でも書けるように設計された硬さ」であり、同時に「誰の記憶にも残る書き味」なのだ。
鉛筆は、削るところからもう“書いている”
鉛筆は、書くときだけが「書いている時間」ではない。削るときから、すでに“思考”や“記憶”が始まっている。そして書き進めるうちに、芯がだんだん丸まっていく─その感覚もまた、手に宿る時間だ。

だからこそ、僕たちは大人になっても、あえて鉛筆を選ぶのだろう。そして、超精密な仕事をする人──グラフィックデザイナー、クロッキーを描く画家、設計士などが、いまだに鉛筆を愛用している理由がよく分かる。
そしてもうひとつ。
僕はかつて、新聞記者にも鉛筆の愛用者が多いと、聞いたことがある。来る日も来る日も、言葉を紡ぐ仕事だ。そんな仕事だからこそ、身体と記憶と発想が宿るツールとして、鉛筆に自然と手が伸びるのだろう。
鉛筆は、書く道具であると同時に、「手と記憶をつなぐ道具」なのだ。
Hi-UNIという完成品─なぜこの鉛筆は“道具を超える”のか
Hi-UNIを手に取ってまず感じるのは、質感の高さだ。表面の滑らかなコーティング、しっとりとした木軸の手触り。削ったときに立ち上がる、ほのかな木の香り。

そして、芯を紙に滑らせたときの感触。ザラつかず、かといって滑りすぎず、まるで”紙と会話するような書き味”が、そこにはある。
これはただの鉛筆ではない。作品を描くための道具であり、思考を下書きするための“原型ツール”であり、記憶を留めるための触媒でもあるのだ。

“変わらない”ようで“変わり続けている”─定番が定番であるための進化
Hi-UNIは、ずっと変わらないように見える。しかし実は、ロゴの印字やパッケージ、芯の品質などは
時代とともに細やかにアップデートされてきた。
「定番」は、ただ何も変えないことではない。
「変えるべきではない本質」と「変えるべき部分」を見極め続けることによって、定番は“定番であり続ける”のだ。Hi-UNIもまた、静かに進化を続けてきたからこそ、今も変わらず多くの人の筆箱に残っている。
100年後に残したい一本─そして、あなたの“はじめの一本”は?
そして僕は思う。鉛筆は「残る文具」ではない。
書くことに携わるすべての者が、鉛筆で言葉を紡ぎ、発想を生み出し、後世に「残さなければならない」文具だ。そんなことを、いちいち僕が言わずともHi-UNIは、その“役割”をこれからも淡々と果たしていくだろう。
デジタル全盛の時代に突入した今だからこそ、人間が発想するには身体性が欠かせない。発想の結晶である言葉を生み出す筆記具にも、やはり“身体”が宿る必要があるのだ。
この一本が、100年後も”書くこと”を愛する人々のそばにありますように。そして、書くことの“はじめの一本”でありますように。

……おっと、そんな野暮なことを言うなと、Hi-UNIに叱られそうだな。
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