紙が語り出す言葉に、耳を澄ます日がある。小さな会場で、大きな思想に出会った。FRAT#7は、文具と紙の現在地を映すミクロな展覧会だった。
🔗Bungu(文具)とZakka(雑貨)の合同展示会”FRAT#7″

この文章は、展示されたモノをなぞるだけの記録ではない。その向こうにいる“つくる人たちの思想”のを受信した証(あかし)であり、そして文具のチカラを刻む、私的な記憶のスケッチである。
竹尾──オニオンスキン、その先の紙へ
会場を一周し、自然と足が向かったのは、やはり竹尾のブースだった。僕のブログで取り上げた「オニオンスキンペーパー」の記事が、竹尾社内で話題になったと担当の方から聞かされた。
驚きと同時に、静かな感動があった。「好きで書いた記事」が、プロの現場に届いていたという事実。あれは、書き手としての背筋が伸びる瞬間だった。
今回展示されていたのは、新たに設計された文庫サイズのオニオンスキンノート、そして──思わず声が出たのがバイブルサイズのリフィルだ。

A5のような広めのサイズだと、どうしても紙の“ふわふわ感”が目立ってしまう(それが魅力と言えるけど)。だがバイブルサイズに縮まると、紙は一転して凛とした強度を帯び、システム手帳のリフィルとして実用レベルの信頼感を見せていた。

「紙は、用途によって表情を変える」
そんな当たり前のことが、こんなにも新鮮に感じられるのは、竹尾という“思想のある紙屋”が見せる編集力の賜物だろう。
山本紙業──紙は思想のかたちである
FRAT#7という展示会において、最も“語りかけられるような紙”に出会ったのが、山本紙業のブースだった。華やかさではなく、静かな品格を纏った紙たち。なかでも、ロウ引き表紙のノートが目に留まった。
ロウ引きという加工は、単に表面をコーティングして“かっこよく”見せるものではない。触れてみればわかる。これは「紙を守る」という行為そのものなのだ。

中紙に使われていた紙もまた、非常に印象的だった。厚すぎず、かといって頼りないほど薄くもない。
万年筆のインクをよく含み、それでいて裏抜けしない──まさに「書くための紙」として、バランスが取れていた。

この紙、穴を開ければバイブルサイズのリフィルとしても使える。そう思わせてくれる紙に、イベントで出会えることはそう多くない。
そして何より印象的だったのは、代表・山本泰三社長との対話だった。気づけば30分近く、僕たちは紙の歴史、素材、印刷、そしてこれからの紙文化について話し続けていた。
語られるひとつひとつの言葉に、“紙を売る人”ではなく、“紙と生きてきた人”の重みがあった。
モノが語り、人が語り、それを聞くことで、紙がさらに深く見えてくる。この体験そのものが、山本紙業の“商品”なのではないか──そう感じた時間だった。
SEED──変わらない顔で、進化する消しゴム
展示会の一角で、僕は思わず足を止めた。懐かしい、けれど今もなお現役感に満ちた「Radar(レーダー)消しゴム」が並んでいた。
関西圏では「消しゴムといえばRadar」と言われるほどの存在感を誇るこの製品。長年にわたって学生やプロの現場で愛用され続けてきた、日本を代表する“静かな名品”だ。

驚いたのは、その外観がほとんど変わっていなかったこと。パッケージは昔ながらのブルー&ホワイト。それでも、“古い”という印象は微塵もなく、むしろ「変えないことで信頼を守る」という意志すら感じさせた。
おそらく中身──つまり材質や削りカスのまとまりやすさなどは、時代に合わせてアップデートされているのだろう。それでもあえて、変わらない顔をしている。この消しゴムには、そんな思想が宿っているように思えた。
一方で、ポップな進化も進んでいた。展示されていたカラフルなRadarシリーズは、見た目から楽しい。特に女性や外国人観光客に向けて「文具をファッションの一部として楽しむ視点』からデザインされているのだろう。

変わらないものが、変わることで守っているものがある。そのことを、SEEDの展示は静かに語っていた。
Docket Store──店があるという信頼、挑戦があるという希望
展示会という“仮設の街”のなかで、まるで一軒の実店舗がそのまま移動してきたかのような空間があった。
DOCKET STORE。

文具を軸にしながらも、ただのセレクトショップには収まらない。この店は、“場所を持つこと”の意味と“選ぶ力”の強さを、静かに伝えてくる。
手に取ったのは、ドットテンプレートの定規とジャバラ式のカレンダー。どちらも既存の文具にはない“ちょっとしたひねり”が加えられていて、「こんなものがあったのか!」と素直に驚かされた。


Docketが扱っている商品は、どれも“定番”ではなく“問いを含んだ文具”だ。これは誰のための道具か?どんな場面で使ったら面白いか?──そんな問いが、展示を眺めるこちら側に自然と湧いてくる。
そして何より、店が“実店舗を持っている”という事実の重み。
リアルの場があるから、商品が“ただのモノ”ではなく“選ばれた文具”に変わる。SNSの発信と店頭での接客とが融合し”ブランドが生きて”いる。
僕は、まだ店舗も商品も持っていない。けれど、いつか──きっとこの世界に立ちたい。そう思わせてくれる、理想の先にあるモデルケースが、ここにあった。
結び──3つの視点で共鳴した場所
文具マニアの視線でも、文具のチカラを伝えるメディア目線でも、そして今後THINK INK NOWが進む文具ビジネスの経営者目線でも──この展示会は、すべての感覚が共感し、共鳴する場所だった。
FRAT#7は、単なる展示会ではなく、“つくる人”の声と“選ぶ人”の直感が交差する、静かで力強いフィールドだった。
あわせて読みたい(noteのご案内)
下記のリンクは、FRAT#7からの帰り道での、僕の心の移り変わりを書いたnoteです。こちらもあわせてご覧ください。
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