はじめに
高市早苗総理大臣は就任直後の今年10月21日「現行の労働時間規制の緩和検討を上野賢一郎厚生労働相らに指示した」との日経新聞の報道を目にしました。それ以来「残業規制緩和」の流れが加速したように感じます。
そしておとといの日経新聞では「自民党厚労部会長・鬼木誠氏」の次のようなコメントを読んだのです。
地域を回ると、かつては残業代をアテにして頑張ったという声も聞くし、いまもがむしゃらに頑張りたいという人もいる。そうした声にも応えていくということが必要だ。(引用元:労働時間を長くすべきか? 規制緩和の賛否、4氏に聞くー鬼木誠氏/冨高裕子氏/河野龍太郎氏/神吉知郁子氏 日本経済新聞Web版 2025年11月30日)
引用部分の前後を含め鬼木氏のコメントを読んだ瞬間、言葉にしにくい違和感が残りました。“働きたい自由”よりも、“働かされすぎない自由”のほうが大事な時代ではないのか、そう思ったのです。
そのときちょうど、先日読んだ『戦略的休暇』(船見敏子/ぱる出版)が思い出されました。
この本に書かれていた「休むことの意味」と、この見解はまるで正反対を向いている──そう感じたことが、今回の記事の出発点です。
「働きたい人がいる」の論理のすり替え
たしかに、がむしゃらに働きたい時期は誰にでもあります。若いときや成果を出したいフェーズでは「もっとやりたい」という気持ちが出ることもあるでしょう。
でも、それは人生の中のごく短い局面であって「働かせすぎてはいけない」という法律の趣旨とは無関係のはずです。
現場には構造的で見えない「圧力」があります。
- 生活のために残業せざるを得ない
- 断りづらい空気
- 取引先のプレッシャー
- 評価に直結する不安
だからこそ「働きたい人がいる」というフレーズを根拠に、残業規制を緩めることには無理があります。
「残業で稼ぐしかない」構造が問題なのでは?
冒頭で引用した鬼木氏の「残業代をアテにして頑張ったという声」。これは美談ではなく、むしろ ”構造的貧困の副作用”です。
- 基本給の低さ
- 物価高
- 非正規の増加
- 実質賃金の低下
これらが積み重なった結果として、残業に頼らざるを得なかっただけなのです。
本来は「残業しなくても安心できる暮らし」を法律や制度で支援するのが政治の仕事。ところが、この声を“働きたい人”として扱うのは、論点のすり替えに感じてしまうのは僕だけでしょうか?
昭和モデルはもう限界
仕事が増えたら「人を増やす」「残業で乗り切る」。この発想は「昭和的精神論」が、いまだ企業の根深いところに残っている証拠ではないかと。
この思考を別視点から見ると、
= 業務改善の放棄
= 生産性向上の拒否
ということになってしまう。
デジタル技術もAIもロボティクスも導入せず、結局働く人の「時間とマンパワー」で押し切ろうとする。これでは、ますます早くなるであろう”時代の変化”に耐えられません。
マーケットの進化に対応出来ず、自然に淘汰される企業を延命させる結果になるのではと心配になります。
規制の緩和は“ゾンビ企業”を延命させる
そして、淘汰されるべき”ゾンビ企業”が延命すると、
- 労働者は疲弊し続ける
- 生産性は向上しない
- 新興企業にリソースが回らない
- 日本の成長が鈍化する
という悪循環が果てしなく続くでしょう。
それを断ち切るために必要なのは、規制緩和ではなく“働き方の再設計”です。
- DX(デジタル技術)の導入
- つながらない権利の保全
- 労働時間そのものの見直し
- 生活と仕事の境界の保護
これらこそ最優先で進めるべきだと思います。
『戦略的休暇』が示した「未来のつくり方」
冒頭で紹介した『戦略的休暇』では、
- 休むとは怠惰ではなく
- 休むとは未来に投資する行為だ
と述べています。つまり休暇とは、思考・健康・創造性・人間性を守るための“戦略” なのだと。しかし、残業規制緩和派の人たちは、この大切な視点と完全に逆を向いているような印象を持ちます。
僕は「働く人の人生」を守りたい
僕自身も、若い頃は夜中まで働くのをいとわない時期がありました。でも、それが長く続けば心身の健康を損なうリスクはどんどん高まります。だからこそ、今の僕は思うのです。
働く時間ではなく、働く人の人生を守る働き方が必要だと。
人の時間を削ることでしか成り立たない社会構造は持続不可能。企業もそこで働く人たちも持ちこたえられない。そして歪な社会構造を放置することは、日本の発展にとって阻害要因でしかないのです。
おわりに──昭和の延長ではなく、新しい未来の労働観へ
『戦略的休暇』が描く未来と、残業規制緩和を唱える国会議員の価値観はあまりに対照的でした。働き方を変えるということは、経済の問題であると同時に”生き方を取り戻す営為”でもあります。
僕は働く人たちの“人間性を削らない働き方”こそ、未来の競争力になると信じています。
あわせて読みたい
THINK INK NOWではこの他にも、様々なジャンルの記事をご用意しております。ぜひこの機会にご覧ください。






コメント