防衛は保険と同じ──日本が直視すべき安全保障の現実
村野:防衛は保険と同じ、本来はない方がいい非常事態への備えであり、使うかどうかもわからない。でも、そこにどれだけのお金をかけるかは、端から見たときに潜在的リスクへの本気度を示す指標になるというのはその通りだと思います。p.285
この比喩は、とても分かりやすく、同時に重い。保険とは「使わずに済むのが一番いい」ものだ。それでも人は、万が一に備えて保険に加入する。
安全保障も同じはずなのに、日本では長らく「防衛=戦争」かのような語られ方をしてきた。そしてそれを語ると「右か左か」というレッテルも貼られてしまう。だが本書が示しているのは、感情論ではなく外から見た現実だ。
どれだけの備えをしているかは、周辺国から見れば「この国は、どこまで本気で自国を守るつもりなのか」という意思表示になる。
そしてこの引用も読んでほしい。
村野:一方で中国は、日本を射程に収める弾道ミサイルだけでも2024年時点で1300発もある。p.276
毎日のようにメディアで目にする「台湾有事」というトピックス。しかし言葉だけが独り歩きして、具体的なリスクや備えについての議論は、驚くほど少ない。
平和を願うことと、現実を見ることは矛盾しない。むしろ、現実から目を逸らすことのほうが、はるかに危うい。
中国の弾道ミサイル1300発が、常に日本を射程にする現実。背筋の寒くなる思いがする。
おわりに|世界は、そんなに単純じゃない
『世界の大転換』を読み終えて、強く残った感覚がある。それは、「世界は分かったつもりになった瞬間、見誤る」ということだ。
トランプを分断の象徴として切り捨てることも、プーチンや習近平を狂気の独裁者として単純化することも、感情的には分かりやすい。だが、それでは何も見えてこない。
権力者は構造の中で誕生し、国民もまた、歴史や恐怖、利害の積み重ねの中で動いている。
平和を願うことは大切だ。だが同時に「見たくない現実」から目を逸らすことと、平和主義は同義ではない。
感情に寄り添う言葉だけで世界を語ることは、むしろ危うさを孕んでいる。
この本が与えてくれたのは、答えではない。世界を善悪で切り分ける前に、一度立ち止まり、構造から考え直す視点だった。
では、僕たちは何を基準に世界の現実を見ればいいのか。誰の言葉の、どこを信じ、どこに疑問を抱くべきなのか。
世界はそんなに単純じゃない。
だからこそ、物語に飛びつかず、現実を見つめ、国のあり方を考え続けることが、いま最も誠実な態度であると思う。
謝意
なお今回レビューした書籍「世界の大転換」(小泉悠著)は、参加中のSNSコミュニティー「ツナグ図書館」を通じて「SBクリエイティブ様」よりご恵贈いただきました。関係各位様にはこの場をお借りして、厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
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