【THINK INK NOW BOOKs】頑張れない人は間違っているのか|『ごめんなさい、もうこれ以上頑張れません』レビュー

『ごめんなさい、もうこれ以上頑張れません』書影とレビュータイトル|頑張れない人は間違っているのかを問うTHINK INK NOW BOOKsのアイキャッチ画像 ブックレビュー
「もう頑張れない」と言ったとき、人は何を守っているのか。何を失うのか。

はじめに|なぜ「頑張れない人」は否定されるのか

この場面を読んで、手が止まった。「二度と手の届かない存在」とは、「死」を意味するのではないか。

そう思った瞬間、胸の奥が締めつけられた──このあと、心が疲れた5人の物語は、静かに動き出す。

精神科医・広岡清伸先生の著書『ごめんなさい、もうこれ以上頑張れません』(アスコム)は、「生きるとは何か」を静かに問いかけてくる一冊だった。

『ごめんなさい、もうこれ以上頑張れません』(精神科医 広岡清伸著/アスコム)のカバー画像
『ごめんなさい、もうこれ以上頑張れません』(精神科医 広岡清伸著/アスコム)

冒頭の引用は、パワハラ上司に追い詰められ、心を病んでしまった「診察室04:野村さん」を心配する彼女のお母さんが、娘を広岡先生の診察へとつなぐ時の心象風景である。

心臓の動悸が止まらず、胸の奥が締めつけられるような感覚に襲われた。気がつけば、肩を震わせていた。本を読んで涙が出ることはある。でも、このときの涙は少し違っていた。

広岡先生につながって「本当に良かった」と心の底から思えたからだ。

この場面以外にも感銘を受けた言葉がいくつもあった。読み終わったいまも頭の中に響いている。それでは詳しくレビューしていこう。

『ごめんなさい、もうこれ以上頑張れません』はどんな本か

本書は、精神科医として1万人以上を診察してきた著者が、心が折れてしまった人たち5人の実例をもとに語る一冊である。

いわゆる自己啓発書の多くは「もう少し頑張れば変われる」と語る。しかしこの本は違う。ここで語られるのは、「前に進むこと」ではなく、いったん立ち止まることの意味である。

答えも、正解も提示されない。ただ繰り返し「傷ついたなら休んでいい」と書かれている。そして、怖さや不安を感じながら、それでも「生きていける」と語りかけてくる。

決めつけない、押しつけない。そんな著者の語りは、心が疲れた読者にとっての、よりどころになるだろう。

「立ち止まること」を肯定する視点

僕たちは、立ち止まることに強い不安を感じる。

周りが進んでいるのに、自分だけが止まっている。その状態に耐えられず、無理をしてでも前に進もうとする。

しかし本書は、その前提をやわらかく覆してくる。立ち止まることは、後退ではない。むしろ、回復のために必要な時間である。

この言葉が示すように、休むことは怠けではない。それは今まで、僕たちが学んでこなかった、生きるための技術なのだ。

うつは弱さではなく「生きてきた証」である

本書の中で語られる、うつ病の捉え方も印象的だった。うつは「弱さ」ではない。むしろ、真面目に生き、責任を果たそうとしてきた人ほど抱えやすいものだという。

社会に適応し期待に応えようとして、頑張ってきた人が、あるとき、その限界に達する。

それは、怠けではない。
そして、逃げでもない。

むしろ、それまでの生き方の延長線上で起きた、ひとつの心の反応である。

この視点に触れたとき、「頑張れない自分」を責め続けてきた人は、少しだけ肩の力を抜けるのではないかと思う。

まとめ|「もう頑張れない」と思う人にこそ届いて欲しい

花は、人に見られるために咲くのではない。この本の中で語られるこの比喩が、強く印象に残っている。

人間も同じで、人生は評価されるためにあるのではない。誰かに認められなくても、誰かに見られていなくても、自分のペースで咲き、生きていること自体に意味がある。

成果や評価に縛られているときほど、この言葉は静かに響いてくる。

「もう頑張れない」

そう思ったことがある人にこそ、この本は届いてほしい。頑張れない自分を責めている人。立ち止まっていることに不安を感じている人。

そんな人にとって、この本は前に進むための一冊ではない。むしろ、立ち止まることを許してくれる一冊である。

そして、そこからまた歩き出せばいい。人生は、止まってもいい。

そこからまた、始めればいいのだから。

生命とは、人生とは、ここに在り続ける限り価値がある──読み終えたあと、背表紙を眺めながらそんな余韻にしばらく浸っていた。

謝意

この書籍は参加中のプロジェクト「ツナグ図書館」を通じて、出版社「アスコム様」よりご恵贈いただきました。ご厚意に深く感謝申し上げます。

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