【THINK INK NOW BOOKs】「台湾有事」の構造を読み解く|『自滅する米中』レビュー

『自滅する米中』レビュー|台湾有事の構造を読み解く(佐々木れな・SB新書) ブックレビュー
危機を煽らず、構造で読む。『自滅する米中』が示す台湾有事の本質。

はじめに|「台湾の次は沖縄」という衝撃

「台湾の次は沖縄」

中国人民解放軍のコメントから、彼の国の戦略を導き出した一節に、思わず背筋が伸びた。同時に、僕はこう思った。── すでに台湾有事は始まっているのではないか、と。

今回手に取った『自滅する米中』(佐々木れな著/SB新書)は、台湾をめぐる米中対立を扱う一冊である。しかし読み終えたいま、僕が感じているのは単なる危機感とは違う。

『自滅する米中』(佐々木れな著/SB新書)のカバー写真
『自滅する米中』(佐々木れな著/SB新書)

中国も米国も「内憂外患」を抱えている。そして両国とも台湾が半導体をはじめとする先端産業の集積地であることも理解している。それでもなお、威信と影響力をかけた競争は止まらない。

果たして本当に米中は自滅するのか。そしてこの危機の中で、日本は何を示せるのか。本書は、台湾有事を煽る本ではない。その構造を冷静に読み解く本である。

台湾はなぜ米中の核心なのか

台湾問題は単なる領土問題ではない。

第一列島線という地政学上の要衝であり、太平洋の支配権を左右する位置にある。そして何より、世界の先端半導体生産を担う経済的要衝でもある。

ここで重要なのは「軍事」と「経済」が切り離せないという点だ。

台湾を失うことは、中国にとって国家統合の失敗を意味し、米国にとってはインド太平洋戦略の崩壊を意味する。そして日本にとっては、経済安全保障の根幹が揺らぐ。

つまり台湾は、軍事的にも経済的にも、米中双方の“核心”なのである。この視点に立ったとき、台湾有事は感情論ではなく、構造的必然性を帯びて見えてくる。

止まれない大国──内憂外患と威信の政治

本書が卓越しているのは、米中を善悪で描かない点だ。

中国は経済減速、人口減少、国内統制の問題を抱える。米国もまた、MAGAに象徴される分断と政治的混乱を抱えている。両国ともに「内憂外患」の状態にある。

内政が不安定なとき、外部への強硬姿勢は政治的な意味を持つ。威信は国内をまとめる道具になる。だがそれは同時に、引き返しにくい構造を生む。

威信を賭けた行動は修正が難しい。誤りを認めにくい。その結果、競争はエスカレートする。

ここに「自滅」の芽が見え隠れする。

軍備拡大が生むジレンマ

安全保障のジレンマとは、自国の防衛強化が相手に脅威と映り、結果的に双方が軍備拡大へと進む現象である。

抑止のつもりが、エスカレーションの引き金になる。台湾有事は不可避なのか。

本書はそう断定しない。むしろ示唆するのは、誤算の連鎖こそが最大のリスクだということだ。相手の制約を誤読する。国内事情を読み違える。

強硬姿勢が引き際を奪う。戦争は力の差だけで決まらない。錯誤の総量で決まる。

この視点は、国家レベルを超えて組織や企業にも通じる。誤りを修正できない構造は、規模の大小にかかわらず自滅へ向かう。

それでも日本にできること

本書が最も示唆的なのはここだ。

日本の貢献は、単純な防衛力強化ではない。外交、情報、経済、そして教育。国力の総体を底上げすること。冷静さを保ち、対話の回路を維持し、構造を読み違えないこと。

危機は現実だ。しかし恐怖に支配される必要はない。台湾有事が他人事ではない以上、日本は自らの立ち位置を再定義しなければならない。

日本は成熟国家として、東アジア地域の安定に、世界の平和に何を示せるのか。その問いが、本書の核心である。

おわりに|危機を直視することは、恐怖に屈することではない

『自滅する米中』は、未来を予言する本ではない。構造を示す本である。

構造を理解すると、景色が変わる。煽りに流されにくくなる。単純な善悪では語れなくなる。台湾有事は必然ではない。だが状況を誤読すれば、現実になる。

危機を直視することは、恐怖に屈することではない。むしろ思考の強度を上げることだ。

読み終えたいま思うこと。本書は米中対立を描いた一冊ではない。日本の覚悟を問う一冊であると、確信を持ってお伝えする。

謝意

今回レビューした書籍『自滅する米中』は、参加中のプロジェクト「ツナグ図書館」を通じて、「SB新書 様」よりご恵贈いただきました。ご厚意に深く感謝申し上げます。

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