【THINK INK NOW BOOKs】『生命科学的思考』レビュー|感情は“弱さ”ではなく、生き延びるための”機能”だった

『生命科学的思考』レビュー|感情は弱さではなく生き延びるための機能だと説く一冊|THINK INK NOW BOOKS ブックレビュー
感情は、理性の敵ではなかった。──『生命科学的思考』が教えてくれた、生き延びるための人間の仕組み。

※この記事について:本記事は過去note に掲載したレビュー記事(リンクは下記)を加筆修正し、ブログ向けに再構成したものです。

はじめに──生命という大いなる流れの中で

この本を読み終えたあと、しばらく背表紙に手を当てたまま、心の奥にある小さな余韻を感じていました。

『生命科学的思考』(高橋祥子著/NewsPicks パブリッシング刊)は、理系の知見を並べただけの本ではありません。

この古くて新しい問いに、生命科学の知見で近づいていく。優しい表現ながら奥の深い「哲学書」のような一冊でした。

『生命科学的思考』書影|高橋祥子著。DNA構造をモチーフにした装丁が象徴的な一冊
『生命科学的思考』(高橋祥子著/NewsPicksパブリッシング)。感情や迷いを「生命の機能」として捉え直す視点が、この装丁にも象徴されている。

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生命とは、膨大な時間をかけて積み上げられてきた“プログラム”の連鎖。その上に人間は、高度な”理性=知能”という例外的な力を手に入れました。

だからこそ僕たちは、

  • 感情に振り回されて
  • 迷いと不安に戸惑い
  • 何をやっても疲労を感じる

そんな、理屈だけでは割り切れない生き方をしています。生命の原理に従う自分、それに逆らいたい自分、その狭間で揺れ続けること。

それこそが「人間らしさ」であり、人生を複雑に、そして愛おしくしているのだと感じます。


感情は“弱さ”ではなく、生存のための機能である

本書で最も心に残ったのは、この視点でした。

同僚からミスを指摘されてムッとしたり、深夜のコンビニで突然、孤独感に襲われたりする瞬間──それは決して“心が弱いから”ではありません。

本書は、こうした感情の揺れを生命科学の観点から解きほぐしていきます。

  • 「怒り」は敵への備え
  • 「不安」は危険察知能力
  • 「孤独」は仲間を求めるサイン

つまり、これらは生存のために遺伝子に組み込まれた“機能”なのです。この視点を持つだけで、日常の風景が変わります。

「またイライラしてしまった」「なんでこんなに落ち込むのか」と自分を責めていた瞬間が、「あっ!またプログラムが作動しているな」と心の状態を客観視できるようになる。

これがわかると心は驚くほど軽くなります。

もう一つ、心に深く残った言葉があります。

辛いときは理性で、嬉しいときは全身で味わう。この一文を、僕はしばらく胸ポケットに入れて歩きたいと思っています。


科学技術への“盲信”は、私たちを脆くする

最終章で語られる「科学技術の光と影」は、読了後もじわじわと響くテーマでした。科学は包丁と同じで、幸福にも破滅にも使うことができる。

原子力、遺伝子編集、人工知能(AI)──そのすべてが人類に“便利さ”と“危うさ”の両極を突きつけています。

本書は科学を否定しません。

むしろ、扱うためには「謙虚さ」が不可欠だと語ります。便利さの中で「これは僕たちを幸せにする」と無邪気に信じ始めた瞬間こそ、もっとも脆い地点に立っているのかもしれません。

あなたは、便利さの影に潜むリスクをどれほど意識しているでしょうか。たとえばChat GPTを使うとき、主体は“あなた”でしょうか。

それとも、技術の側に主導権を奪われてはいないでしょうか。

「科学は人間の性善的な側面を引き出すべきである」

その言葉は、これからの時代を生きる私たちへの静かな警鐘のようにも、励ましのようにも感じました。


おわりに──自分の感情にやさしくなれる本

読後において、僕はひとつの変化を感じました。「感情に振り回されるのは弱さではない」という感覚が、ようやく腑に落ちたのです。

怒りも不安も孤独も、生きるために”仕組まれた機能”であるなら──責める必要はない。ただ、使い方を学んでいけばいい。

その両方を抱えて生きられるのが“人間”なのだとしたら、僕たちはもっと自分に優しくあっていいのだと思います。

もしあなたが、自分の感情に疲れを感じているなら、どうか一度この本を手に取ってみてください。

感情はあなたを惑わせているのではなく、生かそうとしているのかもしれません。

そして僕は、今日も少しだけ丁寧に生きてみようと思うのです──
遺伝子を持つ、ひとつの生命体として。そして、血の通ったひとりの人間として。

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