※この記事について:本記事は過去note に掲載したレビュー記事(リンクは下記)を加筆修正し、ブログ向けに再構成したものです。
はじめに──生命という大いなる流れの中で
この本を読み終えたあと、しばらく背表紙に手を当てたまま、心の奥にある小さな余韻を感じていました。
『生命科学的思考』(高橋祥子著/NewsPicks パブリッシング刊)は、理系の知見を並べただけの本ではありません。
「人間とは何か」
この古くて新しい問いに、生命科学の知見で近づいていく。優しい表現ながら奥の深い「哲学書」のような一冊でした。

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生命とは、膨大な時間をかけて積み上げられてきた“プログラム”の連鎖。その上に人間は、高度な”理性=知能”という例外的な力を手に入れました。
だからこそ僕たちは、
- 感情に振り回されて
- 迷いと不安に戸惑い
- 何をやっても疲労を感じる
そんな、理屈だけでは割り切れない生き方をしています。生命の原理に従う自分、それに逆らいたい自分、その狭間で揺れ続けること。
それこそが「人間らしさ」であり、人生を複雑に、そして愛おしくしているのだと感じます。
感情は“弱さ”ではなく、生存のための機能である
本書で最も心に残ったのは、この視点でした。
たとえば他人に対して怒りを覚えてしまうのは、自分の敵に対応するためであり、孤独感は人と集団で生活することで生き延びていた人類が、一人で生きることを避けるための機能です。(中略)ですから、こうした感情を抱いたときは、「自分が感じている」ということよりも、「遺伝子に搭載された機能が正常にはたらいている」と客観視するよに私は心がけています。(第1章/22 ページ)
同僚からミスを指摘されてムッとしたり、深夜のコンビニで突然、孤独感に襲われたりする瞬間──それは決して“心が弱いから”ではありません。
本書は、こうした感情の揺れを生命科学の観点から解きほぐしていきます。
- 「怒り」は敵への備え
- 「不安」は危険察知能力
- 「孤独」は仲間を求めるサイン
つまり、これらは生存のために遺伝子に組み込まれた“機能”なのです。この視点を持つだけで、日常の風景が変わります。
「またイライラしてしまった」「なんでこんなに落ち込むのか」と自分を責めていた瞬間が、「あっ!またプログラムが作動しているな」と心の状態を客観視できるようになる。
これがわかると心は驚くほど軽くなります。
もう一つ、心に深く残った言葉があります。
辛事は理、幸事は情を以て処す。(第1章/26 ページ)
辛いときは理性で、嬉しいときは全身で味わう。この一文を、僕はしばらく胸ポケットに入れて歩きたいと思っています。
科学技術への“盲信”は、私たちを脆くする
同じ包丁一つとっても、料理で人々を幸せにすることもできれば、殺人事件を起こすこともできてしまいます。同じように現在、我々は急速に発達した科学によって人類を幸福に導くこともできれば滅亡させることもできる力を手にしました。だからこそ科学は、ディストピアを作るものであってはならず、人類の性善的な側面を引き出すものであるべきだと考えています。(第5章/219ページ)
最終章で語られる「科学技術の光と影」は、読了後もじわじわと響くテーマでした。科学は包丁と同じで、幸福にも破滅にも使うことができる。
原子力、遺伝子編集、人工知能(AI)──そのすべてが人類に“便利さ”と“危うさ”の両極を突きつけています。
本書は科学を否定しません。
むしろ、扱うためには「謙虚さ」が不可欠だと語ります。便利さの中で「これは僕たちを幸せにする」と無邪気に信じ始めた瞬間こそ、もっとも脆い地点に立っているのかもしれません。
あなたは、便利さの影に潜むリスクをどれほど意識しているでしょうか。たとえばChat GPTを使うとき、主体は“あなた”でしょうか。
それとも、技術の側に主導権を奪われてはいないでしょうか。
「科学は人間の性善的な側面を引き出すべきである」
その言葉は、これからの時代を生きる私たちへの静かな警鐘のようにも、励ましのようにも感じました。
おわりに──自分の感情にやさしくなれる本
読後において、僕はひとつの変化を感じました。「感情に振り回されるのは弱さではない」という感覚が、ようやく腑に落ちたのです。
怒りも不安も孤独も、生きるために”仕組まれた機能”であるなら──責める必要はない。ただ、使い方を学んでいけばいい。
生命のプログラムと人間の意思
その両方を抱えて生きられるのが“人間”なのだとしたら、僕たちはもっと自分に優しくあっていいのだと思います。
もしあなたが、自分の感情に疲れを感じているなら、どうか一度この本を手に取ってみてください。
感情はあなたを惑わせているのではなく、生かそうとしているのかもしれません。
そして僕は、今日も少しだけ丁寧に生きてみようと思うのです──
遺伝子を持つ、ひとつの生命体として。そして、血の通ったひとりの人間として。
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