『なぜ油絵で”サラサラ”の髪の毛が描けるのだろう?』

三菱一号館美術館で開催中の『ルノワール X セザンヌ』展覧会を訪れた私は、この作品の表現の不思議さに心を奪われた。しかし、ちょっと待てよ。もちろんルノワールとセザンヌの作品は見事だ。
しかし、それを引き立たせる演出もあるのではないか?
そう思った私は、絵画の鑑賞をするとともに、展示空間の設計、照明と導線の工夫、そして作品同士の対話的な配置にも注目した。
そしてこの展示会からやく1ヶ月が過ぎようとしているいま、それはブランドが顧客に届ける「世界観」と共通していると考える。
「印象に残るデザイン」とは何か?──その答え合わせを論じてみようと思う。
『ルノワール X セザンヌ』展をみて「ブランド」に必要な構図を考えた

展示は”ルノワール→セザンヌ→両者の対話”という流れで構成されていた。これは単なる作品の羅列ではなく、「構図」によって導かれる物語だった。
ルノワールの柔らかさと、セザンヌの構築性。その対比と並列が「ブランドにも構図がある」ことを教えてくれる。
伝える順番、空間の緊張感、配置のバランス──それらすべてが、ブランドが何をどう見せたいかという戦略に通じている。
三菱一号館美術館のUX設計に学ぶ”空間と時間”のデザイン戦略

三菱一号館美術館の体験は「時間ごとデザインされている」と感じさせる。明治期の洋館という歴史的背景、空間のスケール、照明のトーン、展示と休憩のリズム──それらが自然に訪問者の感情を整えていく。
ブランドにおいても「物理的UX」は侮れない。リアル店舗(接客・購入)、パッケージ、開封体験。Web空間(バーチャル)であれプロダクト(リアル)であれ、時間軸を含めた設計が“記憶に残る体験”を生む。

”世界観の構築”はアートから学べ──ブランドに必要なストーリーテリングとは
アートが人を惹きつけるのは、それが「物語」を内包しているからだ。
キャンバスの外にある背景──作家の視点、時代、意図。それを“読ませる余地”があることが、鑑賞体験を深くしている。
ブランドも同じだ。「誰が」「なぜ」「どんな思いで」この商品をつくったのか。それを感じさせる設計がなければ、記憶には残らない。
感動を生むのは”余白”──ルノワールの色彩にみるWebデザインの本質

ルノワールは”裸婦を包む”空気まで切り取ったのか?
色彩のやわらかさと、にじむような輪郭。それが「余白」を感じさせ、観る者の”感情の入る余地”を残している。Webデザインでも同じだ。余白がないと息苦しく、情報の“詰め込み”では感動は生まれない。
鑑賞者が自由に感じさせる余地を与えること─
─それでこそ観えるものがある。ルノワールは、そのバランス感覚に優れていたのではないだろうか?
”印象に残る”とはどういうことか?ーアートとUXのランデブーポイント
印象に残るという体験は、論理(ロジック)ではなく感情(エモーショナル)の中にある。
それは「理解」ではなく「没入」に近い。展示の流れ、空間の静けさ、作品の間の余白。それらが静かに感情を動かすことで、記憶は定着する。
ブランドやUXも同じだ。機能や説明ではなく、「感じられるもの」でなければ、人の記憶には残らない。
おわりに

感性や美意識だけではない。「どう見せるか」「どう感じさせるか」を意識した設計=戦略。それこそが、記憶に残るブランドの核なのだ。
静かな感動は構成されていた。ルノワールとセザンヌの作品の中に。そして三菱一号館美術館という構造物の中に。
しかし、この拙文では『ルノワール X セザンヌ』展の素晴らしさも、感動的な二人の巨匠の作品の魅力も、三菱一号館美術館の見事な展示会のUI/UXも、伝え切れてはいないだろう。
それを体験をしたいなら、自ら実際に足を運んで、感じていただくしかない。『ルノワールとセザンヌ展』は9月8日まで。まだ間に合います。
コメント